この記事では、フランス革命を描いた5つの風刺画について解説します。
革命前と革命後に分けて順番に解説していきますので、当時の世相がどのように変化していったか見ていきましょう。
フランス革命前の出来事と風刺画の解説
フランス革命とは、1789年から1795年にかけてフランスで起きた資本主義革命のことです。
特権階級(貴族と高級聖職者)が権力を独占していた状況が破壊され、「ブルジョワジー」と呼ばれる商工業や金融業を営む平民を中心とした社会が形成されました。
革命前夜におけるフランスの体制
当時のフランスは第一身分(聖職者)と第二身分(貴族)が特権階級として権力を握り、税金も払わず裕福な暮らしをしていました。
これらの特権階級は人口比でわずか2%という少数派でしたが、高級官職を独占しており、国家財政の大半を懐に入れていました(当時の官職収入は桁違いに大きかった)。
一方、第三身分と呼ばれる人々は課税対象となっており、高い税金を納めねばならず苦しい生活を強いられていました。
なお、第三身分の中でも「下層階級」の人口比は約90%で、ほとんどの市民は下層階級でした。
このような当時のフランスの体制を「アンシャン・レジーム」と呼びます。
フランス革命前夜を描いた風刺画①「重税に苦しむ第三身分」
フランス革命以前におけるフランスの状況を描いた風刺画を紹介します。
これは「重税に苦しむ第三身分」というタイトルで知られている風刺画です。
フランス革命が起きる直前の1789年頃に描かれたものですが、作者は不明です。
租税という石に押しつぶされているのが第三身分で、石の上に乗っているのは左が聖職者(第一身分)、右が貴族(第二身分)です。
アンシャン・レジームの状況がよくわかる風刺画となっていますね。
ところで、押しつぶされている第三身分の右足の近くに、丸い果物のようなものが転がっているのがわかるでしょうか。
これは「洋梨」です。
洋梨のことをフランス語で「poire(ポワレ)」と言いますが、この単語に「bonne(良い)」という単語を付けて「bonne poire」とすると、「お人好し」「だまされやすい人」という意味になります。
実はこの風刺画は当時の第三身分に対してばらまかれたビラだったという説があります。
このビラに秘められたメッセージは、当時のフランスで掲げられていた「聖職者は”祈り”で、貴族は”剣”で、平民は”金銭”をもって国王を守る」という言葉に第三身分のあなたたちはだまされている!ということを伝えるものだった、という説です。
第三身分の近くに洋梨を配置することで、暗に第三身分がだまされていることを伝えようとしたのかもしれません。
フランス革命前夜を描いた風刺画②「願わくば,この状況がうまく終わるように」
もう一つ、フランス革命前の様子を描いた風刺画を紹介します。
こちらの風刺画も作者不詳で、1789年に描かれたものです。
下部に「願わくば、この状況がうまく終わるように」(A faut esperer q’eu se jeu la finira bentot)と書かれており、鍬を持った農民(第三身分)が聖職者と貴族(特権階級)をおんぶしています。
第三身分が重税に苦しんでいる一方、特権階級が悠々自適な生活を送っていることが読み取れる風刺画となっています。
フランス革命発生時の出来事と風刺画の解説
第三身分の怒りが頂点に達する
当時のフランスはルイ15世時代から続いていた負債に加え、軍事費に莫大なお金がかかっていました。
というのは、ヨーロッパ内の戦争に積極的に参戦していたうえに、アメリカ独立戦争でアメリカ側に巨額の軍事支援を行っていたためです。
このような軍事費への巨額投資によって、フランスの財政状況はとても厳しくなっていました。
それに加えて歴史的な小麦の不作に見舞われてしまい、主食であるパンの価格が高騰。
市民の怒りが最高潮に達してしまいます。
このときにルイ16世王妃のマリーアントワネットが放った言葉「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」はあまりにも有名ですが、この言葉が第三身分の逆鱗に触れたのは当然と言えるでしょう。
バスティーユ監獄の占領
怒ったフランス市民は反乱を企て、まずバスティーユ監獄を襲撃し、武器弾薬を確保しようとしました。
バスティーユ監獄には政治犯や精神病者などが収容されており、アンシャン・レジームの象徴とみなされていました。
この出来事が直接的なフランス革命の始まりとなります。
フランス革命発生後を描いた風刺画①「第三身分の目覚め」
こちらはフランス革命が発生した後に描かれた風刺画です。
タイトルは「第三身分の目覚め(Réveil du tiers état)」です。
右側に倒れている第三身分(平民)が圧政の鎖を断ち切り、武器を手に立ち上がろうとしています。
それを第一身分(聖職者)と第二身分(貴族)が驚いて見ています。
画面後方では圧政の象徴であるバスティーユ監獄が取り壊されようとしており、その隣には槍の先に生首を掲げた人々の姿が描かれています。
1789年1月にフランスの革命指導者であるシェイエスが著した『第三身分とは何か』では、「国民のほとんどが強く鎖につながれている」と記述されています。
この風刺画で第三身分が鎖を断ち切ろうとしているのは、その書籍をモチーフにしていると考えられています。
フランス革命発生後を描いた風刺画②「さらばバスティーユ」
こちらの風刺画も、バスティーユ監獄の占領後に描かれたものです。
タイトルはまさに「さらばバスティーユ(Adieu Bastille)」です。
左側に描かれているのはライオンを連れた第三身分で、バグパイプを吹きながらゲーム盤を踏み鳴らすと、盤上に糸でつながれた聖職者と貴族が踊る、という様子を描いています。
背景では、バスティーユ監獄の取り壊しが行われています。
第三身分はカラーで描かれており、しかもライオンまで連れているのに対し、聖職者と貴族はモノクロ、しかも小さく描かれています。
特権階級の権威が失墜し、立場が逆転した当時の状況を風刺しています。
フランス革命発生後を描いた風刺画③「今こそ、皆で大きな負担を背負うことが望まれている」
その後、フランスでは絶対王政が崩壊し、身分制の撤廃、封建制の廃止が果たされた結果、フランスは民主的な国へと生まれ変わっていきました。
納税も第三身分だけでなく全市民が平等に分担することになりました。
その様子を表した風刺画がこちらです。
こちらの風刺画は作者、作成年月ともに不明ですが、フランス革命直後に描かれたとされている1枚です。
風刺画の下部に書かれているタイトルは「今こそ、皆で大きな負担を背負うことが望まれている(Le Temps present veut que chacun supporte le grand fardeau)」です。
第一身分、第二身分、第三身分が協力して石を持ち上げています。
石には「国家債務(debt nationale)」と書かれています。
フランス革命後に立憲国民議会が成立したことで、身分制度は廃止され、新たに定義された「国民」の全てが国家債務を返済することになった様子を表現した風刺画となっています。
まとめ:風刺画を見れば世相がわかる
この記事では、フランス革命に関連する風刺画の意味を解説しました。
5つの風刺画を順番に眺めてみると、フランス革命前後で当時の世相がどのように変化していったかがわかるのではないでしょうか。
例えば革命前は石につぶされるだけの存在だった第三身分が、革命後は石を持ち上げるまでに成長しています。
これらの風刺画は200年以上前に描かれたものですが、現在でも当時の状況を鮮明に蘇らせてくれる、色褪せない存在と言えるでしょう。
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