風刺画とは何か?教養としての風刺画のススメ

風刺画(ふうしが)とは、政治や社会のできごと、人物の欠点や矛盾を、誇張やユーモアを交えて批判的に描いた絵のことです。

新聞や雑誌の一コマ漫画として描かれることが多く、文字が読めない人にも一目でメッセージが伝わるため、古くから権力者への批判や世論づくりに使われてきました。英語では caricature(カリカチュア)や political cartoon(ポリティカル・カートゥーン)と呼ばれます(風刺画の英語表現について詳しくはこちら)。

当サイトでは、古今東西の風刺画について解説しています。

ひとえに風刺画といっても、政治や社会情勢を痛烈に批判したものもあれば、単純に人や動物の特徴をわかりやすく誇張して描かれたものもあります。

風刺画が描かれた時代背景や当時の世相などと合わせて理解することで、世界史や日本史への理解も深めることができます。

3000年の歴史を持つ風刺画の世界を楽しんでいってください。

そもそも風刺画とは?

「風刺画」と聞いて、あなたはどのような絵画をイメージされるでしょうか?

実は、「風刺画」の定義は明確に定まっていません。

「その時代における政治や社会を端的に表現した絵画」であったり、

「社会や人物の悪いところを遠まわしに批判した絵画」であったり、

「人物や動物の特徴を際立たせるために誇張した表現で描かれた人物画/動物画」であったり。

人それぞれの価値観によって定義が変わるところも、風刺画の面白いポイントといえるでしょう。

政治や社会情勢を表現した絵画

「魚釣り遊び」(ビゴー 1887)
「魚釣り遊び」(ビゴー 1887)

これは日清戦争直前の日本・ロシア・中国の状況を描いた「魚釣り遊び」という風刺画です。

COREE(朝鮮)という魚を釣ろうとしている日本と清(中国)、さらに漁夫の利を橋の上から狙っているロシア。

当時の極東情勢を端的に表現する風刺画として、教科書に掲載されるほど有名になりました。

この風刺画の作者であるジョルジュ・ビゴー(1860 – 1927)はフランス生まれの挿絵画家ですが、1882年から1899年にかけて日本に17年間滞在し、当時の日本の世相を伝える数多くの絵や風刺画を残したことで知られています。

ビゴーの生涯と代表的な風刺画についてはこちらの記事で解説しています。

この風刺画のように、ある時代の政治や社会情勢を端的に表現した絵画のことを「風刺画」と呼んでいます。

社会や人物の悪いところを遠まわしに批判した絵画

「LE CONGRES(会議)」(1815年頃)
「LE CONGRES(会議)」(1815年頃)

こちらの風刺画は1814年から1815年にかけて開催されたウィーン会議を風刺したものです。

参加各国の利害がぶつかり、なかなか合意が得られない状況を舞踏会に例え、「会議は踊る、されど進まず」という有名なフレーズが生まれたことでも知られています。

こちらの風刺画については下記記事で詳しく解説しています。

もう一つ、日本の風刺画を紹介しましょう。

「道外武者 御代の若餅」(歌川芳虎 1849)
「道外武者 御代の若餅」(歌川芳虎 1849)

こちらの風刺画は「道外武者 御代の若餅」というタイトルで、作者は歌川芳虎(生没年不詳)です。

織田信長が餅をつき、明智光秀が餅をこね、豊臣秀吉が餅をのばし、徳川家康が餅を食べています。

出版されたのは1849年ですが、「家康の天下取りを風刺した」ということで出版からわずか半日で幕府によって没収され、芳虎自身も処罰を受けています。

このように、為政者や公人の悪政や悪事について、遠まわしに批判するために描かれた絵画を風刺画と呼ぶことがあります。

いわゆる「風刺画」というとこのようなタイプの絵画を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

人物や動物を誇張して描いた人物画/動物画

「みかけハこハゐが とんだいゝ人だ」(歌川国芳 1847)
「みかけハこハゐが とんだいゝ人だ」(歌川国芳 1847)

こちらの絵画は多くの人が絡み合って人の顔を形成する「寄せ絵」というスタイルを取っています。

作者は江戸時代の浮世絵師である歌川国芳(1798 – 1861)です。

特に政治的な批判や社会への風刺は含まれていませんが、これも立派な「風刺画」といえるでしょう。

このようなタイプの風刺画は海外でも盛んに描かれ、”カリカチュア(Caricature)”と呼ばれています。

有名な例としてはクロード・モネ(1840 – 1926)が若い頃に描いていたものがあります。

「ユージーン・マルセルのカリカチュア」(モネ 1855-1856)
「ユージーン・マルセルのカリカチュア」(モネ 1855-1856)

このカリカチュアは人物画ですが、通常の人物と異なり頭部が大きく描かれ、等身が低い特徴があります。

モネは少年時代、このようなカリカチュアを描いてお小遣いを稼いでいたそうです。

「風刺画」と「カリカチュア」「政治漫画」の違い

広義には風刺画・カリカチュア・政治漫画(ポリティカル・カートゥーン)は重なり合う概念ですが、当サイトでは次のように整理しています。

用語ニュアンス
風刺画政治・社会・人物への批判や皮肉を絵で表現したものの総称
カリカチュア人物や動物の特徴を誇張して描く技法・様式そのものを指すことが多い
政治漫画(ポリティカル・カートゥーン)新聞・雑誌に掲載される、時事性の強い一コマ風刺画

※この用語整理は当サイト独自の分類です。学術的に厳密な区分ではなく、記事を読みやすくするための目安としてご覧ください。

風刺画の歴史──3000年前から現代まで

風刺画の歴史は、実に3000年以上前までさかのぼります。

ここでは時代ごとの流れを一覧表でつかみ、詳しく知りたい時代の記事へ進んでいただける構成にしています。

世界最古の風刺画は?

パピルスに描かれた動物(紀元前1100年頃)
パピルスに描かれた動物(紀元前1100年頃)

世界最古の風刺画は、紀元前1100年頃にエジプトで描かれた「パピルス」と言われています。

パピルスでは動物が二足歩行で行進しており、まるで日本の鳥獣戯画を彷彿とさせる絵画です。

この絵画が当時の社会を風刺しているのか、それとも単純な寓話なのかは定かではありませんが、いずれにしても3000年前から人類は風刺画を描いていた、と考えると感慨深いものがありますね。

ちなみに、風刺画の歴史についてはこちらの記事で細かく解説しています。

日本最古の風刺画は?

では、日本で初めて描かれた風刺画は何でしょうか。

これも明確な答えがあるわけではありませんが、平安時代末期に描かれたとされる「鳥獣人物戯画」が日本最古の風刺画ではないか、という説があります。

鳥獣人物戯画(12世紀~13世紀)
鳥獣人物戯画(12世紀~13世紀)。これも風刺画?

鳥獣人物戯画は「甲・乙・丙・丁」の4巻で構成されています。

平安末期に描かれたとされる「甲」では動物が擬人化されて描かれており、「乙」では馬や牛といった日本にいる動物や虎や象といった海外の動物、はてまた麒麟や竜といった架空の動物までが描かれており、まるで動物図鑑のような巻になっています。

鎌倉時代前期に描かれたとされる「丙」では人物や動物による遊戯が描かれ、「丁」では人物による遊戯のほか、法要や宮中行事などが描かれています。

甲巻の一部
甲巻の一部

こちらは甲巻の一部ですが、猿が法要を終えた僧正、兎が猿僧正へのお礼の品を運んでいる様子が描かれています。

エジプトのパピルスといい鳥獣戯画といい、西洋でも日本でも、同じように動物を擬人化しているのが興味深いですね。

時代別・風刺画の流れ

時代主な出来事・特徴関連記事
古代(紀元前〜)エジプトのパピルス、風刺の起源風刺画の歴史
平安〜江戸鳥獣人物戯画、歌川国芳の寄せ絵風刺画の歴史
18世紀石版画技術の発明で大量生産・新聞掲載が可能に、フランス革命の風刺フランス革命の風刺画
19世紀帝国主義・列強の植民地政策、ジョルジュ・ビゴーの来日、日清戦争ビゴーの風刺画まとめ/中国分割の風刺画/セシル・ローズの風刺画/日清戦争の風刺画
20世紀前半日露戦争、二つの世界大戦、バルカン問題日露戦争を描いた風刺画6選/ヨーロッパの火薬庫
20世紀後半〜現代冷戦、ベトナム戦争など近現代の戦争「戦争」を描いた風刺画まとめ
21世紀SNS社会、スマホ依存、現代の世相を映す風刺現代を描いた風刺画34選

風刺画の代表的な作者

風刺画の歴史には、時代を代表する作者が何人もいます。ここでは、とくに名前が挙がることの多い作者を紹介します。

作者国・時代特徴と代表作
ウィリアム・ホガースイギリス(1697–1764)連作版画でロンドンの社会風俗を描いた、イギリス風刺画の先駆者。代表作は「ビール街とジン横丁」(1751年)
ジェームズ・ギルレイイギリス(1756–1815)政治家や王族を大胆に誇張した政治風刺で人気を集めた。ナポレオンとピットが地球を切り分ける「プラム・プディングの危機」(1805年)が有名
オノレ・ドーミエフランス(1808–1879)新聞の石版画で政治や市民生活を風刺。国王ルイ・フィリップを描いた「ガルガンチュア」(1831年)で禁錮刑を受けた
歌川国芳日本(1798–1861)江戸時代の浮世絵師。寄せ絵や戯画のほか、天保の改革を風刺したとされる作品も残した
ジョルジュ・ビゴーフランス(1860–1927)明治時代の日本に17年間滞在し、「魚釣り遊び」など当時の日本と国際情勢を描いた(ビゴーの風刺画まとめ)
北沢楽天日本(1876–1955)風刺漫画雑誌『東京パック』を創刊し、日本で最初の職業漫画家といわれる

現代では、ストリートアートで社会を風刺するバンクシーのように、新聞や雑誌以外の場で活動する作者も注目されています。フランスの風刺新聞をめぐる議論については、シャルリー・エブドの風刺画の記事で取り上げています。

有名な風刺画の解説記事一覧

当サイトで解説している風刺画を、テーマ別にまとめました。気になるものから読んでみてください。

日本史に出てくる風刺画

世界史に出てくる風刺画

現代の風刺画

テーマ別に楽しむ風刺画

このサイトについて

風刺画.comは、世界史・日本史をより深く楽しむための入り口として、古今東西の風刺画を一つひとつ丁寧に解説しているサイトです。

ビゴーが残した幕末・明治期の風刺画から、フランス革命、日清・日露戦争、二つの世界大戦、そして現代のSNS社会を描いた作品まで、教科書に載るような有名な一枚から、あまり知られていない作品まで幅広く取り上げています。

単に「何が描かれているか」を説明するだけでなく、その作品が生まれた時代背景、作者がどのような意図を込めたのか、後世にどのような影響を与えたのかまで踏み込んで解説することを大切にしています。

風刺画は、教科書には載らない「市井の人々の視点」を映し出す貴重な資料でもあります。

このサイトをきっかけに、歴史をより身近に、そして面白く感じていただければ幸いです。

→運営者について詳しくはこちら

風刺画についてよくある質問

風刺画の読み方は?

「ふうしが」と読みます。「風刺」は、社会や人物の欠点を遠まわしに批判することを意味します。

風刺画は英語で何と言う?

人物を誇張して描いたものは caricature、新聞などに載る政治風刺は political cartoon と呼ぶのが一般的です。使い分けは風刺画の英語表現の記事で解説しています。

風刺画と漫画の違いは?

風刺画は、社会や政治への批判・皮肉を一枚の絵で伝えることに重点があります。一方、漫画はコマを連ねて物語を描くものが中心です。ただし一コマの風刺漫画のように、両方の性格を持つ作品もあります。

教科書に載っている有名な風刺画は?

ビゴーの「魚釣り遊び」、「中国を分割する列強諸国」、「ヨーロッパの火薬庫」、成金の風刺画などがよく取り上げられます。

現代にも風刺画はある?

あります。スマホ依存やSNS、メディアのあり方などを描いた作品が世界中で発表されています。現代を描いた風刺画34選で紹介しています。

最後に ~風刺画は教養である~

風刺画を細かく見れば、その絵が描かれた時代の社会情勢や世相への理解が深まります。

例えばジョルジュ・ビゴーが残した数多くの風刺画を読み解けば、幕末から20世紀にかけて、日本が世界でどのような立ち位置にいたか、社会がどのように変化したか、を理解する一助となるでしょう。

世界史や日本史というと何となく難しそうですが、風刺画を見ることをきっかけにして歴史への興味が湧いてくるかもしれません。

このサイトが歴史を好きになるきっかけになれば幸いです。