風刺画とは何か?教養としての風刺画のススメ
当サイトでは、古今東西の風刺画について解説しています。
ひとえに風刺画といっても、政治や社会情勢を痛烈に批判したものもあれば、単純に人や動物の特徴をわかりやすく誇張して描かれたものもあります。
風刺画が描かれた時代背景や当時の世相などと合わせて理解することで、世界史や日本史への理解も深めることができます。
3000年の歴史を持つ風刺画の世界を楽しんでいってください。
そもそも風刺画とは?
「風刺画」と聞いて、あなたはどのような絵画をイメージされるでしょうか?
実は、「風刺画」の定義は明確に定まっていません。
「その時代における政治や社会を端的に表現した絵画」であったり、
「社会や人物の悪いところを遠まわしに批判した絵画」であったり、
「人物や動物の特徴を際立たせるために誇張した表現で描かれた人物画/動物画」であったり。
人それぞれの価値観によって定義が変わるところも、風刺画の面白いポイントといえるでしょう。
政治や社会情勢を表現した絵画
これは日清戦争直前の日本・ロシア・中国の状況を描いた「魚釣り遊び」という風刺画です。
COREE(朝鮮)という魚を釣ろうとしている日本と清(中国)、さらに漁夫の利を橋の上から狙っているロシア。
当時の極東情勢を端的に表現する風刺画として、教科書に掲載されるほど有名になりました。
この風刺画の作者であるジョルジュ・ビゴー(1860 – 1927)はフランス生まれの挿絵画家ですが、1882年から1899年にかけて日本に17年間滞在し、当時の日本の世相を伝える数多くの絵や風刺画を残したことで知られています。
ビゴーの生涯と代表的な風刺画についてはこちらの記事で解説しています。
この風刺画のように、ある時代の政治や社会情勢を端的に表現した絵画のことを「風刺画」と呼んでいます。
社会や人物の悪いところを遠まわしに批判した絵画
こちらの風刺画は1814年から1815年にかけて開催されたウィーン会議を風刺したものです。
参加各国の利害がぶつかり、なかなか合意が得られない状況を舞踏会に例え、「会議は踊る、されど進まず」という有名なフレーズが生まれたことでも知られています。
こちらの風刺画については下記記事で詳しく解説しています。
もう一つ、日本の風刺画を紹介しましょう。
こちらの風刺画は「道外武者 御代の若餅」というタイトルで、作者は歌川芳虎(生没年不詳)です。
織田信長が餅をつき、明智光秀が餅をこね、豊臣秀吉が餅をのばし、徳川家康が餅を食べています。
出版されたのは1849年ですが、「家康の天下取りを風刺した」ということで出版からわずか半日で幕府によって没収され、芳虎自身も処罰を受けています。
このように、為政者や公人の悪政や悪事について、遠まわしに批判するために描かれた絵画を風刺画と呼ぶことがあります。
いわゆる「風刺画」というとこのようなタイプの絵画を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
人物や動物を誇張して描いた人物画/動物画
こちらの絵画は多くの人が絡み合って人の顔を形成する「寄せ絵」というスタイルを取っています。
作者は江戸時代の浮世絵師である歌川国芳(1798 – 1861)です。
特に政治的な批判や社会への風刺は含まれていませんが、これも立派な「風刺画」といえるでしょう。
このようなタイプの風刺画は海外でも盛んに描かれ、”カリカチュア(Caricature)”と呼ばれています。
有名な例としてはクロード・モネ(1840 – 1926)が若い頃に描いていたものがあります。
このカリカチュアは人物画ですが、通常の人物と異なり頭部が大きく描かれ、等身が低い特徴があります。
モネは少年時代、このようなカリカチュアを描いてお小遣いを稼いでいたそうです。
世界最古の風刺画は?
世界最古の風刺画は、紀元前1100年頃にエジプトで描かれた「パピルス」と言われています。
パピルスでは動物が二足歩行で行進しており、まるで日本の鳥獣戯画を彷彿とさせる絵画です。
この絵画が当時の社会を風刺しているのか、それとも単純な寓話なのかは定かではありませんが、いずれにしても3000年前から人類は風刺画を描いていた、と考えると感慨深いものがありますね。
ちなみに、風刺画の歴史についてはこちらの記事で細かく解説しています。
日本最古の風刺画は?
では、日本で初めて描かれた風刺画は何でしょうか。
これも明確な答えがあるわけではありませんが、平安時代末期に描かれたとされる「鳥獣人物戯画」が日本最古の風刺画ではないか、という説があります。
鳥獣人物戯画は「甲・乙・丙・丁」の4巻で構成されています。
平安末期に描かれたとされる「甲」では動物が擬人化されて描かれており、「乙」では馬や牛といった日本にいる動物や虎や象といった海外の動物、はてまた麒麟や竜といった架空の動物までが描かれており、まるで動物図鑑のような巻になっています。
鎌倉時代前期に描かれたとされる「丙」では人物や動物による遊戯が描かれ、「丁」では人物による遊戯のほか、法要や宮中行事などが描かれています。
こちらは甲巻の一部ですが、猿が法要を終えた僧正、兎が猿僧正へのお礼の品を運んでいる様子が描かれています。
エジプトのパピルスといい鳥獣戯画といい、西洋でも日本でも、同じように動物を擬人化しているのが興味深いですね。
最後に ~風刺画は教養である~
風刺画を細かく見れば、その絵が描かれた時代の社会情勢や世相への理解が深まります。
例えばジョルジュ・ビゴーが残した数多くの風刺画を読み解けば、幕末から20世紀にかけて、日本が世界でどのような立ち位置にいたか、社会がどのように変化したか、を理解する一助となるでしょう。
世界史や日本史というと何となく難しそうですが、風刺画を見ることをきっかけにして歴史への興味が湧いてくるかもしれません。
このサイトが歴史を好きになるきっかけになれば幸いです。