今回の記事では、キューバ危機の風刺画の意味や描かれた時代背景について解説していきます。
キューバ危機の風刺画その1:”Cuban Missile Crisis”
1枚目に紹介するこちらの風刺画は、キューバ危機を描いたものとして最も有名なものです。
この風刺画のタイトルはまさに「キューバ危機(Cuban Missile Crisis)」で、イギリス人の風刺漫画家レスリー・ギルバート・アイリングワースによって描かれ、1962年に発行されたDaily Post誌に掲載されました。
アメリカ合衆国のケネディ大統領とソビエト連邦のフルシチョフ第一書記が、水素爆弾の椅子に座って腕相撲をしています。
お互いに左手で水爆のスイッチを押そうとしており、アメリカ合衆国とソ連が核戦争に突入する一歩手前まで迫っているところを表現しています。
爆弾には「H(水素の元素記号)」と書かれており、この爆弾が原子爆弾ではなく水素爆弾であることがわかります。
また、よく見るとフルシチョフが座っている爆弾には「USA」、ケネディが座っている爆弾には「USSR(ソビエト連邦の略称)」と書かれています。
お互いが自分の国の水爆を「押すぞ押すぞ!」と言っているように見えます。
キューバ危機の風刺画その2 :”Let’s get a lock for this thing”
出典:https://www.loc.gov/item/2009632463/
次に紹介するこの風刺画のタイトルは「Let’s get a lock for this thing(コイツに鍵をかけよう)」です。
作者はアメリカ合衆国の風刺漫画家ハーブロックことハーバート・ローレンス・ブロック(Herbert Lawrence Block、1909 – 2001)で、この風刺画が発行されたのも1962年のことでした。
ハーブロックは外交政策通としても知られており、ピューリッツァー賞の時事漫画部門を3回(1942年、1954年、1979年)受賞しています。
ケネディとフルシチョフがふたを押さえているコンテナには「NUCLEAR WAR(核戦争)」と書かれており、コンテナの中には怪物の大きな手が見えています。
ケネディとフルシチョフの2人は怪物が外に出てこないよう、つまり核戦争にならないよう話し合いをしているように見えますね。
キューバ危機の風刺画その3:” Just in case…”
最後に紹介するのはドイツ生まれの風刺漫画家フリッツ・ベーレント(Fritz Behrendt、1925 – 2008)が1962年に描いたこの風刺画です。
タイトルはドイツ語で「für alle falle…(英語だと”Just in case”、日本語だと”念のため”)」です。
ゾウやキリンなどの動物が戦争から逃れるために、船に乗って避難しようとしています。
後ろからケネディとフルシチョフも逃げようとして後に付いていっているのですが、2人とも後ろにミサイルを引きずっています。
戦争から避難しようとしているにもかかわらず、必要になるかもしれないから念のためミサイルを持っていく、という姿勢がアメリカ・ソ連を強烈に風刺するものになっています。
キューバ危機の風刺画の時代背景
1959年のキューバ革命を機に、キューバとアメリカ合衆国の関係が悪化するとともに、キューバはソ連と急速に接近していきました。
1962年、ソ連とキューバは極秘裏に軍事協定を結び、ソ連はキューバに密かに核ミサイルや発射台、ロケット、戦車などを送りました。
アメリカは偵察飛行によって核ミサイル基地の建設を発見し、すぐにキューバを海上封鎖し、核ミサイル基地の撤去をソ連とキューバに迫りました。
この間、核戦争直前という危険な状態に陥りましたが、当時のケネディ大統領とフルシチョフ第一書記とで書簡のやり取りが行われ、最終的にソ連が核ミサイルを撤去することでこの危機は回避されました。
これらの一連の出来事を「キューバ危機」と呼びますが、わずか2週間程度の期間で発生した出来事です。
キューバ危機を時系列で整理すると下記のようになります。
1962/10/14 アメリカ軍が空中偵察でミサイル基地を発見
1962/10/16 ケネディ大統領にその情報が入る
1962/10/20 アメリカ、キューバ海域の海上封鎖決定
1962/10/22 アメリカ、キューバ封鎖を全世界に発表
1962/10/23 アメリカ、海上封鎖宣言書に署名
1962/10/24 海上封鎖開始
1962/10/26 アメリカ、準戦時体制に移行
1962/10/27 米軍機がキューバで撃墜される
1962/10/28 ソ連、ミサイル撤去
この中で、10/27が最も緊迫し核戦争に近づいた1日とされています。
この間、アメリカとソ連との間で書簡のやり取りが頻繁に行われ、何とか戦争を回避することができました。
今回紹介した3つの風刺画に共通しているのは、アメリカもソ連も積極的に戦争を始めたいわけではなく、お互いに戦争を回避する方法を模索している点が絵に表れている、という点だと思います。
キューバ危機はアメリカとソ連との間で起きた戦後最大の危機と呼ばれていますが、この時もし核戦争が起きていたら、今の世界はどのようになっていたのでしょうか。
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