今回の記事では、風刺画「ヨーロッパの火薬庫」の意味や描かれた時代背景について解説していきます。
風刺画「ヨーロッパの火薬庫」の解説
風刺画「ヨーロッパの火薬庫」の作者は誰?
この風刺画の正式なタイトルは「The boiling point (沸点)」といいますが、海外でも「The Powder keg of Europe(ヨーロッパの火薬庫)」と呼ぶ場合もあります。
作者のレオナルド・レイヴン・ヒル(1867 – 1942)はイギリスのイラストレーターで、この風刺画は1912年にイギリスのパンチ誌に掲載されました。
この風刺画は何を意味している?
この風刺画を見ると、「BALKAN TROUBLES(バルカン問題)」と書かれた大きな釜のふたが開きそうになっているのを、上に5人の男が座って押さえています。
5人の男は「ロシア」「ドイツ」「オーストリア」「イギリス」「イタリア」という5か国を表しており、20世紀初頭から第一次世界大戦までの帝国主義諸国における一触即発の状態を表現したものです。
この風刺画の舞台となっている「バルカン半島」は、ヨーロッパの南東部に位置し、地中海に突き出た半島です。
現在ではスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、コソボ、北マケドニア、アルバニア、ギリシャといった国々がバルカン半島に領土を持っています。
<現在のバルカン半島:青い部分>
この風刺画の時代背景は?
かつてバルカン半島の一帯には「オスマン帝国」と呼ばれる多民族国家がありました。
19世紀後半になり、オスマン帝国が弱体化するとともにバルカン半島では次々と小国が誕生し、徐々に民主化していきます。
しかし、他民族が次々と独立するとなると国境の線引きで争いが起きるようになり、民族間での対立が深まっていきます。
特にスラブ系とゲルマン系の民族対立が激しく、スラブ系には「ロシア」、ゲルマン系には「ドイツ」と「オーストリア」が援助しながら、お互いにバルカン半島での勢力拡大を狙うようになります。
さらに当時ロシアと同盟関係にあった「イギリス」、ドイツと同盟関係にあった「イタリア」が関与してくるようになり、バルカン半島は一触即発の緊張状態になります。
このような19世紀後半の危険なバルカン半島の情勢を「ヨーロッパの火薬庫」と呼ぶようになったのです。
ロシア視点で「ヨーロッパの火薬庫」を描いた風刺画があった
ここでもう一つ、当時のバルカン半島の情勢を描いた風刺画を紹介します。
この風刺画は1908年にロシアのストレコーザ・マガジンという週刊誌に掲載されたもので、作者不詳とされています。
この風刺画はバルカン半島の情勢をロシア視点で描いたものです。
一見何を表しているのかよくわからないのですが、実は登場人物にロシア語で国名が書かれているのです。
この風刺画に国名を付けたものはこちらです。
地面に立っている2人の男(イタリアとオーストリア) が、バルカン半島のにわとり(ギリシャ、ブルガリア、マケドニア、ルーマニア、セルビア、モンテネグロ) を罠に誘い込もうとしています。
ボスニア・ヘルツェゴビナはすでにオーストリアの罠にはまっていて、左下のカゴに閉じ込められていますね。
これは1908年にオーストリアがボスニア・ヘルツェゴビナを併合したことを表しています。
イギリスとドイツは遅れてバルカン半島の争いに参加しようとしており、その様子を右端で双眼鏡を使って眺めているのがトルコです。
ロシアでも「ヨーロッパの火薬庫」は高い注目を浴びていたことがわかります。
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